七面山のお坊さん

住職のおはなし

 先日、身延山高校時代のクラスメートと七面山にお参りをさせていただきました。

 七面山は日蓮宗の中でも唯一の山岳信仰の霊場です。背中に南無妙法蓮華経と書かれた白行衣を身にまとう方々が、七面山に登り修行を積まれます。私の祖父母も七面さまの敬虔な信者でございました。若いころから七面山に登り、高齢になった後も孫たちを連れてよく登っておりました。

 七面山の頂きには敬慎院というお寺があり宿泊することができます。旅館とは異なり宿坊なので過度なサービスはありません。供される食事も一汁一菜の精進料理なのですが、登山で疲れているので美味しく感じます。そしてその給仕をさせていただくのも七面山に勤めるお坊さんたちなのです。

 一緒に登らせていただいた仲間の一人が七面山に長く奉職しており、「私は七面山に参詣する方のサポートに徹することを信条としている」という話を伺うことができました。

 何気なしに登るのではなく、大きな石があればどかすこと。坂が急な箇所は登りやすいよう丸太を使った簡易階段が作られているのですが、それらの建設もすべて七面山のお坊さんがされるそうです。山の中なので雪も深く、冬場は水道も凍結します。参詣者の為に雪をかき参道の確保、ショベルカーを使った大掛かりな作業もあるのですが、それらすべてが「七面さまへの給仕」とのことでした。

 私はこの山道の中どうやってユンボを運んだの?と尋ねました。答えは「一度解体し、頂上でまた組み立てる」とのことでした。私はお坊さんとはお経を読んだり、説法をしたり、最近でしたらどうやったらお寺に人が集まるかを考える等、どちらかといえばお寺の中にいることが多いので、同級生のアクティブな話は驚きました。普段の一妙寺の住職として励む職務とはまったく違うことをしているわけですから。

 七面山の地図が頭の中にインプットされていて、何丁目のあの角を曲がったところの階段が弱くなっていたので、今度通るときに直せるように覚えておく―。心は常に七面山に登る信者さまのことだけと考え、生きておられます。階段を補修する為に必要な道具をカバンの中にいれて、登り降りをされる七面山のお坊さんにとても感銘を受けました。

 最後に同僚は私にこんな話をしてくれました。
「赤澤君がやっている活動もお坊さんだけど、私たちの活動もお坊さんだよ。だってお坊さんの坊という字は土編に方と書くからね。つまり『土方(どかた)』。私たちは七面さまにお参りされる信者さまが少しでも山を登りやすいように土方仕事をさせてもらってるんですよ。」

 私にはこんな立派な友達がいるんだと、とても誇らしくなりました。

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