母の13回忌法要のお話

住職のおはなし

先日、亡き母の13回忌を迎えました。丸12年の歳月が流れましたが、月日が経つのは飛ぶ矢のように早く感じます。

 親子というのは魂で結ばれております。例えば体はそれぞれが個の生命体ですから、親が病気になっても、頭痛、発熱といった症状が子供に伝わることはありません。しかし、父が日ごろどのような気持ちで仕事を楽しんでいるのか、今どんな気持ちで病気に苦しんでいるのかはわかります。体は別ですが、心はつながることができるのです。

 母は私がまだ子供の時に病に倒れました。難しい病魔が母の身体を侵食し、その後長い闘病生活が続きました。脳幹出血を起こしたので、大脳が機能せず母の身体はこちらの呼びかけには応じることができない状態でした。

 私は中学を卒業しお坊さんの修行に出てしまったので、母との思い出は少年時代までさかのぼります。姉と私を育てるために懸命に働いてくれたことを覚えております。

 脳の思考や行動を制御する部分は障害を起こしたものの、体温調整、呼吸など生命維持に必要なところは機能しておりました。体は動かないけど、子供のことを心配する母の気持ちは痛いほど伝わります。回復を信じ、母は長い期間病気と闘ってくれました。

 そんな母の日常に大きな転機が訪れます。ゼロからお寺を作ろうと奮闘している息子の元へ身延山から日蓮聖人のお像がやって参りました。身延山とは自分の子をお坊さんにさせるために、送り出したお山のことです。お寺の中心であるご本尊さまが息子のところにやってきた。これは母として是が非でもご挨拶させていただかなければならない、しかし身体は病魔が蝕み動くことができない。それならばこんな身体はいらない、魂だけでもお参りさせてもらおう。

 身延山からご本尊をお迎えした翌日、十年以上も闘病生活を送っていた母が急遽遺体となって私のところへやってきました。ご本尊さまに最初にお上げするお経が母の枕経となりました。

 母が礼儀を示したかったご本尊さまはその後威光を放たれ、わたしに布教の勇気と希望を与えてくださり、一妙寺という俯仰天地に恥じないお寺が国立の地にできました。

一妙院育延日朋清大姉
十三回忌追善供養
南無妙法蓮華経

  一妙寺住職 赤澤貞槙 拝

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