陰徳陽報のお話

住職のおはなし

難しい漢文や故事の意味をネットで調べていると、ときどき日蓮聖人とお会いすることがあります。と申しますのは、日蓮聖人がお書きになったお手紙には漢籍や古典から多くの言葉が引用されており、それがネットで解説されていることで検索にヒットすることがあるのです。

 これは日蓮聖人が幼いころから四書五経をはじめとする漢書や史書、軍記物など当時の基礎教育を幅広く学んでいたからで、勉学に対する並々ならぬ熱量を感じとることができます。

 今回私が学ばせて頂いた言葉は「陰徳陽報」です。新潟県にある新発田城の櫓の瓦に刻まれている文字で、復元工事の際に藩主の著作や古典から選ばれた文句がいくつか書かれており、そのひとつがこの「陰徳陽報」です。出典は中国の古典『淮南子』(えなんじ)で、意味は誰に見られることがなくともしっかりやっていれば、本当の意味で報われることをいいます。日蓮聖人は『陰徳陽報御書』のなかで「陰徳あれば陽報あり」とお弟子さんのこれまでの苦労をねぎらっておられました。お釈迦さまも「因縁因果、因果応報」などと申されているところでございます。

 他にもご遺文中には「出藍の誉れ」、「蛍雪の功」など私たちがよく知っている故事成語の他、難しい説話もいたるところで引用されています。よくもこんなに勉強なされ正確に記憶されているなと感心いたします。私も受験の際に日蓮聖人にお願いしていればもっといい学校に入学できたのかもしれませんが、どうやら遅かったようです。

 受験シーズンの今回は、初等教育を熱心に学ばれていた学僧としての日蓮聖人のお姿を想像いたしました。日蓮聖人は博覧強記の人といわれ、本当に一人の人間かと疑いたくなる程の知識量と、それを筆におこす才が備わっていたのです。

(佐藤勇光)

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