仏師松本定祥先生のお話

住職のおはなし

  現在一妙寺は四菩薩を作成中でございますが、依頼しておりますのが仏師の松本定祥先生です。私がご尊敬申し上げる偉大な先生です。
 
 ニ年前に依頼した雲台座の製作ですが、どうしてこうも納期が延びてしまったのでしょうか。
実は松本先生は木材を加工中、誤って指が欠損するという大事故にあわれました。それも利き腕である右の指。仏師にとってノミを持つ手の指がなくなるというのは、どういうことでしょうか。そうです、そういうことです。みなさまもその絶望感たるや想像に難くないのでないでしょうか。

 しかしながら松本先生はそんな大事故にも関わらずめげることなく、前を向かれます。「大丈夫、大丈夫!」と気持ちが後ろ向きになることなく不屈の精神で懸命のリハビリ、徐々に指の神経も回復し、以前と同じレベルでお仕事ができるまでに復活されました。
「一時はもう無理かと思いましたが、何とか帰ってこれました。これもまだ仕事しろということなのでしょう」と先生は何事もなかったように笑って私に話されます。

 私は先生の屈託のない笑顔を拝し、「この方は本物の仏師さんだ」と思いました。何故なら仏さまというのは先生のようなお心を持った方でないと彫れないからです。妬みや嫉妬、人の悪口をいう心で仏像を作成するとその仏さまはとても怖いお顔になってしまいます。

「前よりも彫るスピードが落ちましたが、その分丁寧に彫れてますよ!」という先生のお人柄を私は忘れずいつまでもお待ちしたいと思います。

一妙寺住職 赤澤貞槙 拝

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