不動明王のお話

住職のおはなし

みなさまは「不動明王(ふどうみょうおう)」というお名前を聞いたことはございますでしょうか?不動明王とは人間が没後、49日間の旅路のなかで死者の迷いをはらう役割を担う神仏です。

 人間は亡くなると長い時間をかけて向こうの世界へのお旅立ちが始まりますが、7人の仏さまがおひとり7日間ずつそのお世話をしてくださいます。

 不動明王は背中に炎をまとい、右手には剣を持ち、左手には縄を持ちます。これは旅路の邪魔をする悪い虫(心)を怒りの炎と右手の剣にて払い、左手の縄にて故人さまが今生で積まれた御功徳を束ね、きちんと向こうの世界へ継承してくださる様をあらわします。

  この不動明王が携えるたいそう見栄えがする剣は「倶利伽羅(くりから)の剣」といいます。そうです、皆さま大好きなあの鰻です。鰻屋さんへいくと「くりから焼き」がありますね。炎をまとった剣に形が似てる事から名付けられた串焼きです。そういえば、不動明王が大きくお祀りされている成田山新勝寺や目黒のお不動さんなど、有名なお寺の門前には鰻屋さんが軒を連ねています。

 又、うなぎの生態は謎が多くその実態は人間の叡智も及びません。私は先日「人は不思議なもので『考える』とネガティブになり、『感じる』とポシティブになる」ということばを目にしました。

 確かに私たち人間は想像を働かせてしまい、物事を決めつけるといいますか、起こってもいないことが頭を支配してしまうことがあります。客観的な事実に基づかない自分の妄想のほうが上回ってしまうのでメンタルが負けてしまうのです。これは長年の習慣で身に着いた「脳の癖」のようなものです。

 生きている限り、どうしても第一の矢だけは避けられません。仕事では必ず嫌な人に出会いますし、この現実だけは「受容の精神」で受け止める必要があります。しかしそこで第二の矢を受けるかどうかは私たち次第です。

 自分の目や耳、肌感覚でうなぎのようにゆるーりと、ストレスにさいなまれることなく生きていきたいですね。「根拠のない決めつけ思考」という悪い虫を払う知恵の剣が「倶利伽羅の剣」なのですから。

 ちなみに一妙寺の近くにも美味しい鰻屋さんがあります。備長炭にこだわるお店や昭和臭のただようノスタルジックなお店など満載です。ああ、鰻が食べたいなあ。

  一妙寺住職 赤澤貞槙 拝

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