オペラ観劇のお話

住職のおはなし

 自分の思っていることを相手に伝えることはとても難しいことです。最近ではさまざまなビジネス書があり、コミュニケーションスキルや自己表現の向上に役立つ知識を得ることができます。

 しかしながら、共通するところは、人間は情報を五感を通さなければ知り得ないということです。中でも視覚(55%)、聴覚(38%)、言語(7%)の順で情報判断をしていると言われています。

 これはメラビアンの法則と呼ばれ、アメリカの心理学者、アルバート・メラビアンが提唱しました。昔からいうところの、見ざる・言わざる・聞かざるの3つですね。つまり、私の悪事もこの3感を通して帝釈さまに報告されているわけであります。
仏教美術を観るときなども、やはり一番は視覚から入ることが多いと思います。日蓮大聖人が顕された大漫荼羅を拝しますと、まずはその様相に圧倒され、さらに細く文字をみれば、その筆跡から大聖人の願いや感情までをも感じとることができるのではないでしょうか。
 
 さて、話は少々ずれてしまいますが、日蓮宗の祖山である身延山の近くには下部温泉という有名な温泉地がございます。そこに丸一食堂というロースカツがとっても美味しいお店があり、学生だった私もときおり食べに行っておりました。まれに運がよければ大学の先生とご一緒でき、御相伴にあずかることができたことはよい思い出です。

 そんな折、大学の偉い先生がこのように語っておられました。

「昔観たオペラの感動を皆さんに伝えたい。できることなら仏教を、大聖人の世界観をオペラで表現したい。」
 そしてその願いは形となり、身延山が大聖人によって開かれてから七百五十年の記念事業としてこの度、新国立劇場にてオペラ『日蓮の宇宙 曼荼羅世界』として実現されました。

 恥ずかしながら、私は初めてオペラを鑑賞いたしました。まず役者さんの声量、オペラならではの声に圧倒されます。そこにオーケストラの重厚な音楽が加わり、オペラ会場の非日常的な雰囲気の中で観る演技により、これまでにない世界が広がりました。

 これは仏教芸術の新しい表現として大成功だったのではないでしょうか。またその陰にはたくさんの人の大変なご尽力があったことだろうとお察し申し上げます。

 オペラで表現された大聖人の世界は、まさに視覚・聴覚・言語すべてに訴えかけるものであり、大聖人の想いが力強く伝わってくる素晴らしい体験となりました。

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