佛天蓋の設置

住職のおはなし

ウイスキーは30種類以上の原酒を混ぜてつくります。欠点のない繊細な香りがする原酒ばかり集めても、線が細いものにしかならない。一見反対な異質な酒を少し加えると、ぐっと深く奥行きのある味、香りになる。ちょっと変わったヤツが必要なんですよ。優等生ばかり集めてもいい酒にはなりません。(某ウイスキーを作る方より)

なんとなく仏教と似ているなと思いました。私たちは佛様の前で合掌をいたします。これは右手と左手という持ち味の反するものが一つになるという所作です。つまり性質が相対していても調和が生まれることを示します。

善と悪、佛と鬼など性格の反するものが一体となる処に成仏があります。仏教諸宗には各々の大曼荼羅が確立されておりますが、日蓮宗の御本尊の大きな特徴は「提婆達多(だいばだった)」というお釈迦様を暗殺しようとした悪人が大曼荼羅の中に列座されていることだといえましょう。

昨年の世相をあらわす漢字は「密」の文字でした。そして「禍」の一年であったと思います。世界中に感染が広がるコロナウイルス。単に人間の健康を害する伝染病というだけでなく、社会全体をむしばむ災厄にまで発展し、経済へのインパクトは計り知れません。飲食店は営業時間短縮を余儀なくされ、都市封鎖が起こった海外をはじめとして各国、各地で法整備が進まず貧困が長期化、深刻化しました。「コロナショック」が波及し、私たち人間の心が試されている一年であったともいえましょう。

昨年一妙寺は設立10周年を迎えました。この度記念佛具として御本尊の頭上に「佛天蓋(ぶってんがい)」をお迎えいたしましたが、これは仏様の徳をそのまま顕わす仏具です。その意味を調べますと、天蓋は日傘なので、「この天蓋を見たものは、自分もお釈迦様のように日傘を差しかけて貰えるような人物になりなさい」というメッセージが込められているようです。仏教の守護神である帝釈天が常にお釈迦様に日傘を指しかけて従ったという伝承も見受けられます。

ウイスキーが長い年月たるに入って熟成されるように、人もまた10年、20年と宗教を学び徳が備わることでしょう。天蓋を拝し、合掌の生き方を学び、コロナに負けない強い心を持って本年もこの小さなお寺をみなさまとお護りしていきたいと思います。

令和3年がみなさまにとりまして幸せな一年でありますよう、心よりお祈り申し上げます。

住職 赤澤貞槙

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