お坊さんの生きがい

住職のおはなし

  お坊さんになってよかったこと、それは数え切れません。特に私は「ゼロからのお寺づくり」を始めたので土地の取得、本堂・永代供養墓の建立、宗教法人の設立とどれも日常の生活では味わい難い果実の美味を堪能させていただけました。そしてこの成果には達成に向けての努力や苦労がありました。

 こうやって感慨にひたってみますと苦労や逆境を乗り越えたあとの喜びは何年経っても忘れません、財産を取得し、活動が政府から認められ、公印を頂ける喜びはひとしおでした。僧侶という職種は皆さまが思ってらっしゃる以上に多くの喜びに出会えます。なかでも特筆すべきはやはりご遺族様のお気持ちにダイレクトに触れる事でしょうか。

 ひとことに「御供養」といってもその形はさまざまです。お坊さんに読経を依頼することだけでなく、お仏壇を綺麗にしたり、お墓参りに出かけたり、季節のお花や果物を供えるなど。そして故人様を偲び遺族が供養の膳を頂戴することも大切なお弔いでございます。

 府中市にお住まいのとあるご家庭では、一妙寺本堂ではなくご自宅のお仏壇の前でご法事を営まれます。お勤めが終ると奥のお座敷に通されご家族様のお食事にご一緒させていただくことが慣例となっております。最初は私も遠慮するのですが「御供養ですから・・・」といわれますともう何もいえません。天ぷらや煮物など、食卓に並んだ手の込んだお料理からはこの席の為に朝から奥様が準備をされていたご様子がうかがえます。

「まあまあ住職、さあどうぞ。これも酒業(しゅぎょう)ですから」といわれビールや地酒をついでくださり、気付くと時計の針は・・・。お題目は数分しかお唱えしないのに、その後の嘉饌(かせん)には何時間もご相伴に預かっているわけです。これでは本末転倒なのですが皆さま歯切れのよいお話をたくさんしてくださり、私も楽しくてつい長居をしてしまいます。お坊さんは人の温かさに触れる事ができます。こんな私でも必要としてくださる事を実感し「また明日も頑張ろう」と勇気をいただけます。

 お坊さんになってよかったこと、それはSNSでの反応を過剰に気にして疲弊する現代において、人の温かさに触れられるアナログの感動を頂けることです。

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