鬼子母神様のお話し【1】

住職のおはなし

日蓮宗のお寺やお仏壇には「鬼子母神(きしもじん)」という子供を抱いた神さまをお祀りします。 鬼子母神はたくさんの子の母でありましたが、これらの子を育てるだけの栄養をつけるために人間の子を捕えて食べていました。そのため多くの人間から恐れられていたのです。

見かねたお釈迦さまは、彼女が最も愛していた末子を鉢に隠しました。鬼子母神は狂乱となって世界中を探しますが発見するには至らず、助けを求めてお釈迦さまにすがります。そこでお釈迦さまは、このように鬼子母神を諭します。 「多くの子を持ちながら一人を失っただけでお前はそれだけ嘆き悲しんでいる。それなら、ただ一人の子を失う親の苦しみはいかほどであろうか。もう人々をおびやかすのをやめなさい、そうすればすぐに子に会えるだろう」 鬼子母神はこれからは子を食べるのではなく、子を守ることをお釈迦さまと約束しました。

このことから鬼子母神は日蓮宗祈祷における御本尊となりました。そのお姿は左手に子供を抱え、右手には吉祥果を持ちます。「吉祥果」とは魔を払う縁起の良い果物です。 しかしこの吉祥果、経典がインドから中国に渡り、漢訳されたとき訳師は吉祥果の正体がわからず困り果ててしまいました。 わからないものは訳せないので、仕方なく形の似ているザクロで代用します。そして人々は子の安泰を願いながら、鬼子母神へザクロを供え、鬼子母神を祀るお堂の周りにザクロの木を植えるようになりました。

日蓮宗の僧侶がご祈祷を勤める際に着する袈裟にも、やはりこの「ザクロ」が刺繍されております。 真冬の百日間、水をかぶり続け、祈祷本尊である鬼子母神にお経を読み込む過酷な修行を達成した僧侶だけが着用を許されるお袈裟です。住職は平成19年にこの修行を成満しました。 今月のお経の会は、一妙寺の鬼子母神さまへ一年間の安泰をお願いする法会なので、このザクロの袈裟を着用し、お勤めしたいと思います。

ピックアップ記事