お坊さんの駐車違反

住職のおはなし

【日蓮宗新聞で面白い投稿がありましたので、皆様へご紹介いたします】

もう時効だから、話を打ち明けても良かろう。あれは免許とりたての頃だから三十年以上も前のお盆真っ最中のこと。私はスクーターで棚経を廻っていた。

お盆だから当然過密スケジュールで、時間との闘いである。確かに私は急いでいた。快調に風を切っていたら突然、制服姿の白ヘルメットが赤棒を振りながら、ピピーピーッと笛を吹いて飛び出してきた。「アカン警察や」。ネズミ取りに気が付かなかった。

こっちへおいでおいでと手招きされて単車を停める。「お寺サ~ン。お急ぎなのは判りますが、ここは制限速度何キロか知ってますか? ちょっとスピード出過ぎですわ。急がば廻れという諺もあるでしょ?」 「確かに廻り道していたら捕まらなかったが、それちょっと意味ちゃうヤン」とも突っ込めない。

話は変わる。私は車である檀家宅に行っていた。その家は片側一車線の対面通行に面した家だったが、路側帯の幅もまぁまぁあったので家の前に駐車してお参りに伺った。

一応フロントには、気休めにお坊さんのイラスト入りで「近くにお経に伺っています」という表示は出していた。そこの仏間は玄関入ってすぐ脇にあり、仏壇に向かうと左の窓越しに私の車が確認できる。挨拶も済ませて灯を点して読経を始めた。方便品も終わりにさしかかった頃だろうか、フト気がつくと私の車の前に画板をもった婦警さんが立っている。「アカン警察や」。

檀家さんは、高齢で車も免許も持っていないおばあさん。たぶん駐禁のこともよくわからないし、キーを渡してもどうしようもない。若かった私は法要を途中で止めることもできず、片手は木柾を叩きながら、左手は施錠を外して窓を開ける。急に超ッパヤの中拍子に速度を変えて、拝読する神力偈は飛ばし、お題目の回数を少なくする。木柾をひときわカン高く打ち鳴らして、その車の主のお坊さんは「一生懸命ココでお経を読んでいて手が離せませんよ~」を必死に外に向けて猛アピール。お経が終わるや否や「〇〇さん、ちょっとゴメン。お茶とお布施は後で」と言い残し飛び出した。

衣姿で警察に捕らえられ、うな垂れている姿は謗法を犯したも同然。道行く人びとはこちらを見ている。車に貼っている自分で祈祷した交通安全のステッカーが静かに私をそう諭していた。

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