毎日新聞の憂楽帳

住職のおはなし

在家出身の住職

東京都国立市の住宅街にある「一妙寺」は外観を白で統一したデザイン住宅のようだが、れっきとした日蓮宗の寺院だ。住職の赤澤貞槙(40)も異色の経歴で、川崎のサラリーマン家庭に生まれた。在家出身ゆえに世襲できる寺はなく、国立で2010年から布教し寺を開いた。

「社会で必要とされていないと感じる日々でした」。当初は駅前で法話のチラシを配っても反響はない。長女が生まれたばかりで、妻が求人折り込みを示し副業を勧めてきた時もあった。「仏事を心を込めて執り行おう」と法事などをスポットで請け負うと、案内や礼状の筆書きから始まる丁寧な対応が評判を呼び、今は檀家が約150人にまで増えた。

壁を越えてからは順調だったが、この10年で寺と檀家の関係は「住職と個人」に変わり、悩み事もline(ライン)で相談されネット活用は進む。ただ、コロナ禍で寺の会合から足が遠のき精神的に不安定になった人もいて、赤澤さんは「語り合うリアルな場は必要」と言う。デジタル化を加速させた厄災は、小さな寺の役割を再認識するきっかけにもなった。【井崎憲】

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