親の苦労

毎月5月の第2日曜日が「母の日」に当てられています。母の日が近づくと思い出す逸話がありますのでご紹介したいと思います。

これは臨済宗の妙心寺派の管長であられた「匡道老師」(きょうどうろうし)のお話です。禅の高僧として仰がれ、偉くなられても生活は雲水の修行僧とかわらず、質素を旨とされておられました。

 ある日、老師の御信者が、老師が高齢になられてもなお、ごつごつとした木綿の布団で休んでおられるのを見かねて、柔らかい絹布の寝具一組を寄進されました。

 老師は大変に喜ばれました。そして老師の身辺のお世話をする隠侍は早速その夜、かの信者からの心づくしである、ふっくらとした絹布の寝具を老師の寝所に敷いて下がりました。

 夜半になって隠侍はふと目覚めましたが、老師はまだ休んでおられないようです。見ると、お袈裟をつけ、寄進された寝具の前に端坐されて、読経をされているではありませんか。

 隠侍は何ごとかと思いましたが、ふすまの外に座って、老師の読経が終わるのを待ちました。
読経が終わるのを待ちかね、ふすまを開けて、寝具に目をやると、枕の上に、2体のお位牌がきちんと横に寝させてあるではありませんか。不思議に思った隠侍が尋ねると、老師がいわれました。
 
「わしは若い頃から修行に夢中で親不孝を重ねてな、老いた両親にも不自由な思いをさせるばかりで、一度もやわらかくて暖かい布団に寝させることができなかった。ありがたいことに今日いただいた絹布団に、まずお臥み(おふすみ)願おうと思ってな」

寝具にお横たえしたお位牌は、老師のご両親のお位牌であることは申すまでもありません。

親の残してくれた家や物、身体や心、恩恵を法華経の祈りに捧げましょう。
「親の苦労をいつくしむ」私は、引導をお授けする際、必ずこの一文を記しております。それは親の苦労をいつくしむことこそ、送る側の態度であり、仏道修行の他ならないからです。

2012年04月15日