追慕の焼香炉

みなさまは「文学忌」ということばを御存じでしょうか。世に知られた文豪方の命日には、雅号やペンネーム、代表作にちなんで色々と名前がつきます。

いくつか御紹介しましょう、例えば芥川龍之介は、生前好んで河童の絵を描き、作品にも「河童」があることから河童忌(かっぱき)、正岡子規は糸瓜忌(へちまき)と呼ばれ、福澤諭吉は雪池忌(ゆきちき)というそうです。命日である二月三日には、福澤先生を偲び、塾長以下学生などの多くの慶応義塾関係者が墓参をされます。

偉大なる功績やお人柄に思いを馳せ、哀傷の気持ちで手を合わされる方もおられるでしょう。華やかな人生の始まりである誕生と、やがて訪れる終焉と、いつまでも我々の心に残るのはお旅立ちの時かもしれません。

 法華経を熱心に信仰され、一妙寺を応援してくださった信徒さんが霊山浄土へと旅立たれました。

生来温順な性格は、私が折にふれて訪問すると、具にお見受けでき、いつも笑顔で「ありがとう」「ありがとう」とお答えくださるのが印象的なお婆様でいらっしゃいました。誰にに対しても、差別することなく、日蓮大聖人を追慕するが如く、信仰の意を顕されていたお姿が胸に残ります。

 御子息さまより、危篤の報を聞き、私が病院へ駆けつけたとき、お婆さまは集中治療室におられました。延命措置の為に、酸素マスクをされた状態です。苦しい状態にもかかわらず、私に「ありがとう」「ありがとう」と。

お世話をしてくださる主治医の方や看護婦さんへも「ありがとう」「ありがとう」と仰られ、「外科手術で開腹したら、お題目が出てきた」と喩えられたほどです。口ぐちに感謝の念を発せられるそのお姿は、法華経に登場する常不軽菩薩さながらでありました。

「相手を軽んじず、常に敬う」これが、法華経の常不軽菩薩のお教えです。一妙寺が国立市に産声を上げたときも、お寺の誕生を喜んでくださり、焼香炉を御奉納してくださいました。

 「私はお父さんのところへ行くけれど、あなたは新天地での布教に精を出しなさい」というメッセージであると受けて止めますので、どうか、いつまでもお空の上からこのお寺を見守ってください。

2011年09月01日