料理人の住職様

私はお正月になると東京都大田区にある池上大坊というお寺へご奉仕へ参ります。

こちらのお寺さまは日蓮宗の霊跡寺院であり、お正月は参拝客が何万人も来られます。そのため、ご住職さまお一人では手が足りず、近郊の僧侶が応援に駆け付けるというわけです。

私と同じ班になった方は千葉県のお寺のご住職をされているご僧侶さまでした。お話しを伺うとつい最近、資格をとりご実家のお寺を継がれたとのこと。

ここまではよくある話なのですが、驚いたのはその後です。前職はなんとホテルの料理人だったというのです。フランス料理のシェフとして腕を磨き、本場の味を学ぼうと留学の予定まで立てていた矢先、実家のお寺の住職をしている兄が交通事故で亡くなった、住職不在となった実家を見捨てることもできず、料理人の道をあきらめ自分がお坊さんになったというのです。

「子供のころからよくしてくれた檀家さんの期待を裏切るわけにもいかなくてね、フランス行きがまさか本当に仏になるとは思わなかったよ」と笑っておられました。

それまでの私はお寺のご子息さま方に対し偏見の目を持っていました。実家がお寺でない者のひがみといいますか、跡継ぎとして何もかもが保証された環境が羨ましかったのです。しかしこの方の高い志に触れ一方的な思い込みで、寺院のご子息さま方へ妬む気持ちを抱いていた自分が恥ずかしくなりました。

強い気持ちをもって仏門に入られた方はやはり違います。参列者の方も気持ちのこもったお経や説法に心を動かされておられました。 

2016年07月01日